坂本幸雄・エルピーダメモリ社長兼CEO――DRAMメーカーは将来、世界で2社しか生き残れない(1) - 10/01/20 | 16:50
国内唯一のDRAM(メモリ半導体の一種)メーカー、エルピーダメモリ。NECと日立製作所のDRAM事業を統合し、1999年に誕生した(三菱電機の同事業も合流)同社を2002年から率いるのが坂本幸雄社長。
もともとDRAMは業績の浮き沈みが激しい産業だが、リーマンショック以降に製品価格が暴落し業界全体が大赤字に。このため、09年に産活法(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法)による公的資金の出資をエルピーダは受け入れた。危機脱出に向けて采配を振るう坂本社長に、半導体業界の展望を聞いた。
――公的資金の支援要請に躊躇はありませんでしたか。
何もなかった。自分たちが生き残って、次への投資ができるということを考えるべきで、プライドのためにそれ(公的資金の受け入れ)をやらないという選択肢はない。
確かにうちは公的資金300億円を入れてもらいました。でも、間接的に公的資金の支援を多くの企業も受けているのではないでしょうか。たとえばエコポイントとか……。
――エコカー減税もそうですね。
そもそも政府とビジネスをしている企業は利益が保証されている。そういった補助のほうがはるかに大きいのに、それに対しては誰も何も言わない。エルピーダという固有名詞がつくと批判されやすいだけです。
政府、特に経済産業省が信じられないぐらいに協力的でした。日本の半導体、特にDRAMの灯を消さないことを真剣に考えて一緒に行動してくれました。
――エルピーダと台湾勢との連合構築に努力されてきました。
将来、DRAM産業では、2社しか生き残れないという仮説を立てました。そうするとエルピーダ単独では無理。生産技術や資金面で柔軟性を持つためにも台湾の会社と連合を組んだほうがいい。台湾にはDRAM会社が6社あるが、6社とも小さく、かつ特許を持っていません。単独で生き残ることが難しいのでDRAM会社を再編統合したほうがいい。それで08年11月から一時期は隔週で台湾へ行って交渉しました。
――2社というのは御社をはじめとした日台連合と韓国サムスン。
そうです。今、サムスンとハイニックスがつながるといううわさもある。その真偽のほどはわからないがやはり2社ぐらいになっていく。
――DRAM業界で2社しか生き残れないと思われるのは。
今のままだと価格が限りなくゼロに近づく。それは台湾の6社がそれぞれ勝手に投資をして価格を決めるからです。DRAMの価格は2年半の間に15分の1ぐらいに落ち込みました。それに対して、投資コストは圧倒的に大きいわけです。現状では投資は継続できず、次世代製品の生産ができません。
価格がゆっくり下がっていくという産業構造を作らなければ、みんなが死んでしまいます。最後に生き残った1社だけが非常にいい思いをできるというふうになれば、買い手であるパソコンメーカーにとっても不幸です。だから、強い会社が2社残るのがいいと考えています。
――価格低下によって需要を創出してきた面もあります。
今みたいな価格の乱高下が続くと、結局、パソコンメーカーも死んでしまいます。コンスタントに価格が下がったほうが、パソコンメーカーもやりやすい。過去のトレンドで見ると、年間30%ぐらい価格は低下しているので、初めから年間30%の値下げをコミットすればいい。
うちは携帯電話用DRAMを一切値上げせず、四半期ごとに価格を引き下げています。そのほうが携帯電話メーカーは製品開発がやりやすく、メモリ需要も伸びています。なぜパソコン用だけ乱高下するかというと、あまりにも多くの会社がそれぞれ価格を提示しているから。
価格というのは、1社が「このくらい安くします」と言うと、みんなその価格に追従する。僕はエルピーダが台湾と一緒になって一つの価格でやっていきたい。そうすることがDRAMの産業を安定させる。
――価格競争はよくない、と。
必要な競争はやるべきです。しかし、たかだかキャパシティが5%とか10%余っただけで、価格が15分の1になる。これはもうビジネスのレベルを超えています。
――日台連合ですが、台湾側は初めから乗り気だったのですか。
08年暮れに台湾の会社との統合プランを作りました。(エルピーダが出資する)レックスチップが台湾側のプラットフォームになって、段階的に台湾のDRAM会社を買っていく。エルピーダはレックスチップとより深い提携をするのか、合併させるのか、将来を見ながら決めていきましょう、というプランです。
それを台湾政府は非常にいいプランだ、と。ただ、ある会社のCEOがそこにサインしなかった。そのためにTIMC(台湾政府が出資するDRAM統括会社)ができた。その人がサインしていれば、多分そのプランは通り、相当大きなおカネも出てきたと思います。
――台湾政府からエルピーダへの出資はまだ。TIMCによる台湾企業への出資も行われていません。出資が難しいとなると、台湾のTIMCから200億円の出資を受け入れるとした産活法認定時の枠組みとは若干違ってきますね。
そうですね。今は市況が改善し、キャッシュポジションが潤沢になりつつある。だから、仮にTIMCからおカネが入らなかったとしても、うちはやっていける。もちろん、資金が入れば入るほどいいですが。
――資金はともかく、目指した日台連合はできるのでしょうか。
できると思います。プロモスとウィンボンドに対してはエルピーダが技術提供し、彼らはうちのためにファウンドリー(半導体チップの受託製造)をやる。レックスチップはうちが64%の株を保有していますし、パワーチップも生産したDRAMの50%をエルピーダに出す契約です。だから、今のスキームで十分やっていけます。
問題はパワーチップ。残り50%の生産能力分をマーケットに安売りするかどうか。
――坂本さんは異色経営者と称されています。公的資金の注入はあったにせよ、リーマンショック以降の危機を乗り切ることができたのは、坂本社長だからこそ、ですか。
いや、誰でもできたんじゃないでしょうか。不幸にも(DRAM5位だった)キマンダや(フラッシュメモリ大手の)スパンションは倒産しましたが。エルピーダはいろんな方々がサポートしてくれたおかげで生き残ることができた。
本当の危機は6カ月ぐらいだったと思います。その6カ月を耐えられるかが生きるか死ぬかの差だった。
韓国企業も銀行がサポートした。台湾や韓国は基本的に企業が潰れない構図ができているのでしょう。
――ならば、DRAM業界が2社に集約されることはなく、今後も乱売合戦が続いていくのでは。
各社ともバランスシートが傷んでいるので、乱戦が続くことは考えづらい。潰れないが生殺しみたいな状態で、市況がよくなるまで銀行がおカネを貸さない。市況がよくなってからおカネを借りて投資しても、装置が立ち上がるときには一世代遅れています。そうなってしまう台湾を僕らでサポートしよう、と。
エルピーダが台湾企業を取り込んだことで合計シェアは20%強と報じられていますが、09年7〜9月の台湾勢の稼働率はまだ50%以下、多分30%ぐらいです。潜在的なキャパシティを見てください。

――台湾の設備が全部動くと日台連合のシェアはどのくらいに。
サムスンに匹敵するDRAMのキャパシティができる。そうなると、日台連合とサムスン陣営とで、本当の意味で技術競争が起きてくると思います。
――サムスンの強みをどう分析なさっていますか。
R&D(研究開発)です。彼らのよさは、1カ所ですべて作ること。オペレーションの効率がいい。それとR&Dの人間が豊富にいます。多分うちの10倍います。サムスンに対抗するためには台湾でもR&Dをやっていく必要があります。
――エルピーダ以外でも、日本の半導体産業は苦戦しています。
90年代初頭は日本の半導体メーカーの全シェアは50%あったのが今では20%しかない。
――4月には、NECエレクトロニクスと、ルネサス テクノロジ(日立製作所と三菱電機の合弁)が統合しますが……。
会社を切り出すときにいちばん厳しい状態で切り出さないと、大きな変化はできません。親会社からおカネを十分にもらって装置もただでもらって、というようなことをやっていたら世界の中で競争していけない。親会社は子会社をコントロールできると思うし、子会社は親会社に頼る。プライベートエクイティなり、ほかの資本を入れたほうがいい。
肝心なのは、ビジネスモデルを決めて、コア製品に絞り込み、それ以外は売ること。残した会社は初年度から黒字になるビジネスモデルを作らないといけない。海外の半導体メーカーは、半導体以外何もない。それに比べて温室で仕事をしている日本の半導体メーカーは、圧倒的に劣っています。
――生き残りといっても再編だけで半導体業界がうまくいきますか。
日立と三菱がルネサスを作った当時は世界3位でしたが、今は世界8位です。今度また世界3位になっても、そのうち世界8位になります。一緒になるというだけでは全然意味がない。違う文化が入ってきて非常に複雑になる。一緒になってどのくらい経営効率を上げるのか、どこの製品に特化してどのくらい経営効率を上げていくのか、その結果、どのくらい利益を上げるのか、そこに目を向けなかったら、一緒になっても生き残ってはいけない。
――今後のDRAM価格をどのようにごらんになっていますか。
今年は悪くないと思います。業界全体の投資動向を考えると、DRAMの生産能力はそんなに増えません。多分、今年の1〜3月はちょっと価格が落ちると思いますが、そこからまた上がってくる。
今年の平均価格は悪くても1・8ドルくらい。業界で一般的に40ナノメートルのプロセスなら製造原価は1ドル前後といわれています。1・8ドルだと、オーバーヘッドコストなどを考えても、最終利益で十数%はとれると思います。でも、最先端技術を結集した製品が1ドル台では、水より安い。本当にがっくりします。
――パソコンOSのバージョンアップごとにメモリ容量が増えていくビジネスモデルが行き詰まってきています。DRAM産業の将来性がないという声もあります。
これまでのモデルの将来性はないかもしれません。しかし、DRAMの中身が変わってくるのではないでしょうか。環境問題が重要になる中、低消費電力の半導体を作る会社が生き残っていく。必ずしもインテルがいいポジションにいるとは思いません。ネットPCではクアルコムなどが入り始めています。DRAMでも低消費電力が重要な要素になると思います。
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